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『モノ言う中国人』、ネット世論が中国を変えるか?

『モノ言う中国人』 【北京 読書 ブログ】
 中国のごく普通の人々に モノ言う権利 を与えたインターネット。 その普及と発達が、中国の強固な政治体制を揺るがすかもしれない――。

 長い中国在住歴を持ち、外務省の専門調査員として北京の日本大使館に勤務したこともある著者が、その研究テーマの1つである中国のネット世論の動向をレポート。

 そこから見えてきたのは、インターネットの普及によって 「話語権」、つまり “モノ言う権利” を得た一般大衆の登場であり、もはやそれを権力側もマスメディアも無視できなくなっている、という中国社会の変化であった。
 それは、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏のような知識人の民主化運動とも、一線を画す。 ごくごく普通の人たち、とくに若いネットユーザーの “モノを申す” 影響力が増している、という現状だった。

 ところで、この中国語でいうところの 話語権
 近ごろ、中国メディアの論評やネット上で頻繁に目にする新語だという。 同じように頻出する新語 「新意見階層」 (意見を発信するネットユーザーの一群) とその動向には注目していたのだが、「話語権」 のほうは恥ずかしながら見過ごしていた。
 「話語」 とは 「言葉」 や 「話」 のことであり、 「話語権」 とはそこに 「権利」 という意味を加えた造語であることは容易に理解できる。 だからこそ見過ごしたのだろうが、その言葉の持つ新味や真意に気づかなかったのは、うかつであった。

 それだけにまず、著者・西本氏の着眼点の鋭さに驚いたわけだが、著者によればこの 「話語権」 とは――
 ・ 「発言権」 や 「言論の自由」 とは異なる意味合い (が込められた言葉)
 ・ 世論をコントロールする権力 (オンライン新華字典より)

 であり、 ひらたくいえば (公的な場における) “モノ申す権利” であるという。
 この 「話語権」 という言葉が中国社会で多用されるのは、それだけ一般の人たちの中に 「モノ申したい人」 が増え、「モノ申せる場」 が増え、「モノ申す人たち」 の存在が認められ始めているからだ、と著者は指摘する。
 本書のタイトルとしても使われた モノ言う中国人 の台頭である。

 それは、政治思想や職業、所得、学歴、居住地などがばらばらな中国の新しいオピニオン・リーダーであり、その大多数が 「主流」 (権力側、官側) ではない 「非主流」 に属する人たちである。
 さらに多くは、4億ネットユーザーの7割近くを占める30歳未満の若者たちであり、「80後」 (バーリンホウ、1980年代生まれ) といわれる、わがままで自意識が強い一人っ子世代であるという。

『モノ言う中国人』 こうして、モノを言い始めた中国人たちが、ネットを使って世論を動かしたケースも多数ある。

 2001年7月、広西チワン族自治区・南丹のスズの違法採掘現場で発生した大規模な浸水事故 「南丹錫鉱事故」 では、事故を隠蔽した錫鉱オーナーと県幹部にネットユーザーの非難の声が高まり、結果として裁判で重罪判決がそれぞれに言い渡された。

 07年に劣悪な環境下で奴隷労働を強いられた知的障害者らが発見された事件 「山西省闇レンガ工場事件」 も同様にネット上で責任追及を求める世論が高まり、党中央が徹底調査を指示するという異例の重要案件となった。 ネット世論が激しさを増し、北京の “中南海” (中枢部) に飛び火しそうな勢いだったからである。

 ほかにも著者は多数の事例を挙げている。 それはネット世論の影響力の強まりを示す記録としても、資料的価値が高い。

 インターネットという誰しもが利用しやすく、便利で匿名性の高い、新しいメディア・ツールの普及によって、中国に増えつつある 「モノ言う人々」。
 しかし、その新たなる権利を持つ存在は、党政府にとって大きなプレッシャーともなっている。

 昨年秋に尖閣諸島沖の漁船衝突事件の後に発生した反日デモしかり、今年春に全国各地で広がる 「中国ジャスミン革命」 という名の民主化要求デモしかり……。
 インターネットが持つ速報性、流通性、(情報や価値観の) 共有性が、突発的事件に与える影響は計り知れない。 当局がいくら情報統制やネット規制をしようとも、「上に政策あれば下に対策あり」 と中国でいわれる通り、規制の壁は破られていく。

 著者はいう。
 経済の自由化とネットの普及によって、国内外に向けて 「党と政府が理想とするような国家イメージを見せることは、困難になってきているようにみえる」

 中国のマスメディアについても、「報道の受け手に対して情報を提供するだけでなく、指導、説得、鼓舞し、行動を促すために存在しているという (旧来の) 考え方は、もうそろそろ限界に近づいているのでは」……。

 また、(共産党が日本軍を打ち負かして政権を勝ち取ったという) 「『勝利の物語』 を繰り返し語る方式のプロパガンダは、すでに現在の中国には馴染まなくなってきているのでは」……。

 中華人民共和国は、1949年に労働者と農民を基盤とする社会主義国として成立した。
 しかし今の中国は、めざましい経済発展とネットの普及で、新時代への重要なターニングポイントを迎えているのかもしれない。
 戦争勝利の次なるストーリーが示される新時代、主役になるのは 「モノ言う人々」 かもしれない。 労働者と農民に代わり、彼らが中国に民主的社会を構築する主人公になるのである……。
 そんな、ドキドキするような予感を覚えさせてくれた1冊。

 欲をいえば……中国で人気のあるインスタントメッセンジャー 「QQ」 やネット掲示板、大手SNSの影響力については触れられていたが、ここ1年ほどでにわかに普及した中国版ツイッター 「微博」 (マイクロブログ) については言及されていなかった。
 この “微博ブーム” を分析してほしかったが、マイクロブログの普及スピードが速すぎて、本書の出版には間に合わなかったのだろうと推察する。

 新進気鋭のチャイナウオッチャー、西本氏の次回作にも期待したい。



※ 『モノ言う中国人』、西本紫乃・著、集英社新書 (定価: 本体760円+税)
  アマゾン: 『モノ言う中国人』 

※ 関連エントリー (著者とともに)
・ 映画 「嗚呼 満蒙開拓団」 と趙喜晨さんが語る歴史 (2010年1月24日付) 


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  • 2017.06.25 Sunday
  • -
  • 12:20
  • -
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コメント
東日本大震災では、情報、通信手段がことごとく使えなくなり、被災民、行政は苦労したようですが、唯一ツイッターによる情報伝達が活躍したとの報道がありました。これからが中国でも注目される情報伝達手段なのですね。私はまだ使い方も知らない世代ですが、世界の幸福度アップに役立つことを願っています。
  • 「こころの友」
  • 2011/04/13 2:49 PM
「こころの友」さま: ありがとうございます。

震災時のツイッターの情報伝達、そうですね。私もフォローしている人たちのつぶやきから感じていました。

ちなみに中国の「微博」のユーザーはネットユーザーの約半数にあたる2億人超。これからもますます増えていくことが予想されます。

情報、通信の送り方、受け方も変わっていくのでしょうね。
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