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リアルすぎる!?激動の中国描いた 『兄弟』 文庫版

『兄弟』 文庫本 【北京 読書 ブログ】
 激動の現代中国をリアルに描いた小説として物議を醸し、中国で上下巻合わせて100万部を超える大ベストセラーとなった、余華 (ユイ・ホア) 著の 兄弟――。

 中国では上巻の初版が2005年に、下巻が翌06年に出版され、日本では翻訳家・泉京鹿さんによる日本語訳が08年に出版された (文藝春秋刊)。
 原著は計50万字余り、日本語版が上下巻 (文革篇/開放経済篇) で約900ページとなる大著であったが、このたび日本でコンパクトな文庫版がお目見えした。 そこでこの機会に改めて、余華が描いた疾風怒濤の物語に身をゆだねた。

 中国の江南地方に生まれた血のつながらない兄弟、李光頭 (リー・グアントウ) と宋鋼 (ソン・ガン) の数奇な運命が、文化大革命 (文革、1966〜76年) と現代の相反する2つの時代を背景に、重厚かつ軽妙なタッチで描かれていく。
 小さいころ悪ガキだった弟・李光頭は大人になったのちに富豪になるが、反対に聡明でおとなしかった兄・宋鋼は大人になって落ちぶれるばかり……。 悲劇と喜劇、愛と憎しみ、恩と仇、運命の明と暗があざなえる縄のように複雑に絡みあった、なんとも骨太の作品であり、深みのある大河小説なのである。
 ところで小説 『兄弟』 は、賛否両論を巻き起こしつつも、国内外で高い評価を受けているというが、それはなぜか?
 それは物語に終始一貫したリアルさがあるからではないか? 作家が手を緩めることなく、この変化の激しい時代に真摯に向き合い、リアリティーあふれる物語を描ききったからではないか? と思う。
 私自身、北京に久しく滞在しているので実感できるのかもしれないが、本書には中国でよくある話や、具体的事象の描写がきわめてリアルに描かれている。 限りなくノンフィクションに近いフィクション、いやノンフィクションを超えるフィクション、リアルすぎる物語ではないか? と思えるのである。

『兄弟』 単行本 例えば、匂いの表現だ。
 主人公の1人、李光頭は少年のころ、公衆便所で女の尻を覗いて捕まるという悪ガキだったが、この男女用の肥溜めがひと続きになった公衆便所でのスケッチは、簡潔な表現ながら思わず鼻をつまみたくなる。

 「立ち上る悪臭に涙を流しながら、周囲を糞蛆がゾロゾロはい回ろうと気にせず、水泳の選手が試合の時に飛び込もうとするような格好で踏ん張る。 頭と体を深く突っ込めば突っ込むほど、見える尻の面積も広くなる」……

 李光頭がその時に見た5つの尻のようすが、読者の目にも浮かぶような緻密な筆致であることは言うまでもない。

 また例えば、凄惨をきわめる文革時代のリンチの描写。
 李光頭の義父であり、宋鋼の実父である街の中学教師、宋凡平 (ソン・ファンピン) は地主の息子で 「出身が悪い」 として、 「六人の赤い腕章の連中」 に殴り殺されてしまう。
 目を覆いたくなるような残虐な仕打ちのシーンは、文革期に少年時代を過ごした作家が見たり聞いたりした、真実の記憶であるのかもしれない。

 さらに下巻 「開放経済篇」 では、抑圧されたムードの文革期とは一変して、モノ・カネ・オンナの欲望にまみれた “開放中国” が荒々しく描かれる。

 日本から中古スーツを輸入した廃品回収ビジネスが大当たりして、劉鎮のスーパーリッチとなった李光頭。 商魂たくましい彼の発案で、街じゅうを挙げて開催された 「全国美処女コンテスト」。
 コンテストの商機をとらえて、怪しい人工処女膜をセールスする詐欺師・周游 (チョウ・ヨウ)。 周游の口車に乗せられて南方でニセの豊胸クリームを売り歩く羽目になる、生真面目タイプの宋鋼。 夫に先立たれた悲しみの未亡人から風俗サロンのオーナーへと豹変し、みるみるうちに商売を繁盛させた林紅……。

 拝金主義が横行し、汚職や不正、腐敗がはびこる現代中国の一端が、どこかシリアスに、どこかユーモラスに活写される。 物事には必ず光と影があり、表と裏があるだろう。 多角的な面もあろう。
 そうしたあざなえる縄のような重層的な構造と、どこにでもいそうなキャラクターたち、実際にあり得そうな1つひとつのエピソードが、小説をよりリアルな作品に仕上げている。 だからこそ多くの共感を呼ぶのであり、また一方では 「下品すぎる」 だの 「中国の恥をひけらかした」 だのといった非難を浴びたのであろう。

 いずれにせよ、本書はこうして話題となった。
 外国人にとっても、複雑な現代中国を 「歴史」 という横軸と、「社会と人々の変化」 という縦軸でわかりやすくとらえるのに格好の読み物。 ビジネスなどで中国と関わる人には、中国理解の大きな手助けとなるに違いない。

 本書の中で繰り返し、語られる言葉がある。
 もう会えなくなるけれど、それでも僕たちは兄弟だ

 激変する中国にあって、なおも変わらない兄弟の情や家族のつながり。 もともと血縁関係を重要視する中国人だが、あわただしい昨今はそれすらも希薄になっていると聞く。
 この言葉には、複雑化する社会の中で唯一信頼できるもの、永遠に変わらないもの、最後まで変わらないでほしいもの――そうした への作家の願いが込められているようだ。

 ボリュームある上下巻の小説を、軽快なリズムの日本語に訳された泉さんの偉業には、敬意と謝意を表したい。


  余華氏サイン  泉京鹿さんサイン

※ 『兄弟 (上)』 (文革篇)、余華・著/原著、泉京鹿・翻訳、文春文庫、970円 (税込)
  アマゾン
※ 『兄弟 (下)』 (開放経済篇)、余華・著/原著、泉京鹿・翻訳、文春文庫、970円 (税込)
  アマゾン

※ 写真は上から、
  愀残錙 文庫本
◆ 愀残錙 単行本
ぁ^柄亜単行本に余華氏、泉京鹿さんからそれぞれサインをいただきました!(ミーハーなもので、すみません ^^;)

※ 関連エントリー
・ 『兄弟』 日本出版祝い、余華氏と泉京鹿さんを囲む (2008年7月13日付)
 



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  • 2017.12.09 Saturday
  • -
  • 13:10
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コメント
面白そう!!!絶対読みます!映画化は無理かもしれませんね^^;
  • kana
  • 2011/04/20 12:41 PM
kanaさん: ありがとうございます。

文庫版でお手ごろ価格ということもありますので……ぜひぜひ!^^

しかしこの約40年を描いた大河小説を、わずか2時間前後の映画にするのは、残念なことではないかと……。

小説には小説の愉しみがありますよぉ〜。

よかったらぜひ感想もお聞かせくださいね!^^

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