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『悲しみは逆流して河になる』 ― “時代の気分” 写し取る

『悲しみは逆流して河になる』 【北京 読書 ブログ】
 痛みをともなう青春の悲しみが、ひたひたと心の縁 (ふち) に押し寄せる。
 重苦しく、ねっとりとした、逃れようのない悲しみ。
 それはやがて濁流となって全身を包み込み、みるみるうちに絶望と悲嘆の底へと連れ去るのである……。

 中国の若手人気作家、郭敬明 (グォ・ジンミン) が描く、現代版ラブストーリー 悲しみは逆流して河になる (泉京鹿・訳、講談社) は、そんな救いようのない悲しみに満ちている。

 中国語の原題は、そのまま 『悲傷逆流成河』 という。
 郭敬明がプロデューサーと編集長を兼ねる文芸月刊誌 『最小説』 の2006年創刊号からの看板連載として注目を集め、毎月50万〜70万部という同誌の驚異的な売り上げに貢献。 07年に単行本化された小説のほうも、長らくベストセラーに名を連ねた。

 郭敬明自身が、時代の先端をいく世代 「80後」 (パーリンホウ、1980年代生まれ) の作家であるが、ある意味、この小説は 「80後」 と 「90後」 (ジュウリンホウ、90年代生まれ) の 時代の気分 を写し取ることに成功している。
 青春のヒリヒリするような悲痛さが全編に貫かれているが、それこそが中国の現代っ子たちの共感を呼んだのであり、何十万もの共鳴が響いたわけであろうと思っている。

 ストーリーはいたってシンプルである。
 現代上海の弄堂 (ロンタン、横町) に住む、幼なじみの高校生、斉銘 (チー・ミン) と易遥 (イー・ヤオ) の友情とも恋愛ともいえないような、淡くて深いつながりとすれ違いの物語。

 進学校でトップの成績を誇り、イケメンでやさしい斉銘は女子生徒たちの憧れの的だったが、そんな彼が気にかけるのは、むき出しでストレート、それでいていつも悲しそうな女の子、易遥だった。
 彼女の母さんは売春婦で 「だらしのない女」。 近所の易遥の家からは、いつも母親の尖った声が聞こえてくる。

 そんな現実から逃れたかったのか、易遥は校外の男の子と関係を持ち、身ごもってしまう。
 手術を受けるお金もないため、別れた父に会いに行くが、わずか400元 (1元は約12円、約5000円) を手渡して父は冷たく言い放つのだった。
 「もう会いに来ないでくれないか。……私には家庭がある」
 妊娠、中絶、クラスメートのいじめ、家庭の不和。 易遥は負のサイクルにはまり込んでしまったのか? もはや斉銘の特別なやさしさも、流砂の渦に吸い込まれていく彼女を救い出すことはできないのか――。

『悲しみは逆流して河になる』 日本語訳にして500ページを超える大著である。 上海の弄堂と高校が主な舞台で、登場人物も多くはないが、読み応えがある。
 なぜか?
 それが、作家・郭敬明の詩のように幻想的、かつ緻密に練られたディテールであり、圧倒的な表現力の豊かさだ。 ごくごくシンプルな物語に、厚く肉付けをしているのである。

 どのページを開いてもいい。 少し引用してみると――。

 「悲しみと呼ばれる気持ちが、まるで群れをなすアリのように、遠くからやってきて、そろそろと身体を這い上がってくるかのように。 (中略)
 率いているその群れが、心臓の一番上まで這い上がり、やがて足元のやわらかに脈打っているところに、旗を力いっぱい差し込む――ふう。占領したぞ」 (145〜146ページ)

 「……心の中にまるで河が流れているような気がした。 あらゆるかつての気持ちと動揺が、川の底の細かい砂に埋葬されてゆく。 地殻変動によって再びいつ太陽の光の下にさらされるのか、いつ化石になってしまうのか、あるいはすり減って何もなくなってしまうのかは、わからない。 それはみな、かつて青春の中でもっとも美しかったこと。……」 (478ページ)

 作家のあふれるばかりの才能が、満開の牡丹の花のように咲き誇っている。
 それは時にストーリーを呑み込むまでのインパクトを放っていて、中には饒舌すぎる描写が 「鼻につく」 と感じる人もいるかもしれない。
 ただ、この小説の醍醐味はそこにこそあると思う。 読者はたたみかけるような作家の芳醇な言葉たちに、素直に酔いしれればいいと思う。 そして、その表現の中にこそ、作家の本意と中国の今の姿が隠されているような気がしてならない。

 ところで、小説に流れる陰鬱さのもとは何なのか、ハッキリとは書かれていない。 現代中国の過酷な受験競争か? 親の厳しい教育か? がんじがらめの生活で、将来の夢や希望が見えないこと?
 ただ1つ言えるのは、深く、重い河の流れのような高校生たちの悲しみを、作家はあらゆる表現を駆使して描き切ったことだろう。 上海を流れる泥のようにくすんだ色の黄浦江に、無数の若者たちの涙が注がれていることを、作家は感じ取ったのかもしれない。

 ディテールのつながりで言えば、高校生の生活に日本のサブカルチャーがごく自然に登場するのも興味深い。 アニメの 『ドラえもん』 や 『NARUTO』 『BLEACH』、倖田來未 (こうだ・くみ) の歌など……。
 作家は日本の映画や漫画のファンらしいが、それを除いても、中国の都会っ子たちがこんなふうに軽やかに、日本文化に接していることがよくわかる。

 郭敬明は、前述した 『最小説』 の成功で、2007年から2年連続で中国作家長者番付トップになった。
 さらに2010年には、彼が率いる雑誌組織が3.4億元 (約42億円) を販売、1億元の利益を上げたことが最近中国で話題となっている。 勢いに乗る彼は、来年も2つの新雑誌を創刊することを明らかにしたという (『華商報』―華商網、8月2日付)。 
 いずれにせよ、今の中国で巨万の富を得た作家の1人であることは間違いがない。

 ネット小説を中心に、80後、90後の若い作家が次々と生み出されている。 郭敬明も早28歳と、いい年頃の青年になってきたが、その驚異的な活躍はなおも続きそう。
 ベテランの翻訳家で、本書も担当された泉京鹿さんも 「郭敬明という存在が、今度は何をしてくれるのか、いつでも気になって仕方がない……」 (翻訳者あとがき) と注目している。

 第1作のファンタジー・アドベンチャー 『幻城』 (03年) から、ラブストーリーの 『悲しみは…』、そして雑誌のプロデューサーへと華麗な変化を遂げている郭敬明。
 今度はそんな千変万化の彼による、成熟した大人の小説を読みたいものだと願っている。


※ 『悲しみは逆流して河になる』、郭敬明・著/泉京鹿・訳、講談社、2415円 (税込)
  2011年6月初版、514ページ  アマゾン


※ 関連エントリー
・ 最新刊も間近、翻訳家の泉京鹿さんを迎えて 「北京読書会」 (2011年5月28日付)




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  • 2019.12.16 Monday
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コメント
なぜ剽窃ばかりする作家をもちあげるの?
  • hhh
  • 2011/08/06 2:37 AM
hhhさん:

持ち上げたつもりはありません。
作家の繊細な表現力、私は好きですよ。

あと翻訳家の泉京鹿さんは「オマージュだ」と述べておられます。

表現力にオマージュ。
自分にはおもいつかない言葉です。
言語で食べている方は違いますね。
ちょっと意地悪な質問すいませんでした。
ちなみに自分も彼気になってるので読むと思います。
  • hhh
  • 2011/08/06 4:27 PM
一作目は日本のコミック、2作目は同胞中国の小説のパクリ。まあ、毀誉褒貶ありますが、売れたもんの勝ち。
いま、久しぶりに、三島由紀夫の「宴のあと」と平行して、「悲しみは・・」を読んでますわ。
感想はいずれまた。
  • とらやん
  • 2011/08/07 12:55 AM
hhhさん: ありがとうございます。
今日(6日)はずっと出たり入ったりしておりまして、遅くなりました。。。

> ちょっと意地悪な質問すいませんでした。
> ちなみに自分も彼気になってるので読むと思います。

いえいえ大丈夫ですよ。郭敬明に対しては、厳しい意見の方もいらっしゃいますよね。。。

もしご興味があれば、ぜひお読みになってみてください!!

私は、彼の小説が日本の漫画やアニメ、ライトノベルに似ているとしても……(おそらく影響を受けているところがあるのでしょうね)、彼の描いた小説は、彼という媒体を通して、ろ過され、熟成されて作られたものだと思うので、それはそれでアリかな〜と思っています。

大人になった彼の今後に、もっと期待するものです。。。
とらやん様: ありがとうございます。

この大著、読まれたらぜひ感想をお願いします。

楽しみにしています〜〜!!
泉京鹿さんは興味深いので私も次回読んでみます、そんなに中国で売れてる作家さんお作品だとは・・・翻訳も大変だったでしょうね〜とろこで、中国で純粋に娯楽で楽しめるシドニシェルダンやハーレクインのようなのはあるのでしょうか??(笑)
  • kana
  • 2011/08/08 12:57 AM
kanaさま: ありがとうございます。

> 泉京鹿さんは興味深いので私も次回読んでみます

ぜひぜひです!前作の『兄弟』とはまたガラリと異なる作品ですよ〜!^^

> シドニシェルダンやハーレクインのようなのはあるのでしょうか??(笑)

ミステリーについては、ブロガーの阿井幸作さんが詳しいのでご紹介させていただきます。
最近の記事では、「第2回【島田荘司推理小説賞】」の入賞作について書かれていました。
台湾と香港の作家が入賞し、大陸はまだまだのようですが……。
「大賞作品は外国語版となり日本」などで出版されるようですよ。請うご期待〜!!

ブログ【トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く】

「第2回【島田荘司推理小説賞】最終候補作品発表」
http://yominuku.blog.shinobi.jp/Entry/314/
hhh:

真是……郭敬明丟臉都丟到日本了啊。
“抄襲的作家”。
不明白為什麼《悲傷逆流成河》能在日本出版。
在中國也不是所有看過他的書的人都喜歡他的作品。而且,主要是他個人的作風非常讓人討厭。
  • Demon_666
  • 2011/10/04 12:46 AM
郭敬明&#19999;臉都&#19999;到日本了。
他並不是什麼“中国最&#24378;的天才作家”。中國的優秀作家有很多,&#32085;對不包括他。
稱他是“代表&#29616;代中国的&#30021;&#38144;&#20070;作者。最年&#36731;,最有才&#21326;的作家的代表作。”的話,是在侮辱中國文化。
很多中國人都討厭他。不僅是因為他抄襲、他無病呻吟的句子,還有他的作風。太沒有良心,招人厭惡。
  • Demon
  • 2011/10/04 12:54 AM
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