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福島香織著 『本当は日本が大好きな中国人』 を読む―中国に浸透した日本文化論

 『本当は日本が大好きな中国人』 【中国関連 図書 ブログ】

 日本では今、中国人観光客が急増している。 彼らが大量に買い物をする 爆買い といわれる現象も、日本人にはすっかりお馴染みになった。

 しかし、互いに対する感情は、全体としては良くないようだ。 日中間ですれ違う歴史認識の問題や、尖閣諸島をめぐる対立などから、2014年の日中共同世論調査では、「中国人の87%」 「日本人の93%」 が相手国に対して良くない印象を持っている (どちらかといえば良くないも含む) という結果だった。

 統計上は 「互いにこんなに嫌っている」 という結果が出ているのに、なぜ彼らはいがみ合う日本に夢中になるのか。
 中国人は本当は日本が好きなのではないか、ならば 「中国人が好きな日本」 とは何なのか。

 ジャーナリストの福島香織氏が調べ始めると、その背景には中国の歴史や文化、社会状況が深くかかわっており、中国の普通の人たち (とくに一定以上の経済水準を持つプチブル層) への文化的影響力の大きさは、他国に比べて日本が圧倒的であるという。
 そこで一定の中国人に影響を与えたと思われる日本文化を1つひとつ取り上げ、その背景にあるものを分析、考察した上で、中国人の考え方や社会の変化を探ったのが、氏の新著 本当は日本が大好きな中国人 (朝日新書) である。
 それは日中両国の知られざる関係を浮き彫りにした画期的文化論、あるいは現代中国に浸透した特徴的日本文化論ともなっている。

 一言で 「文化」 といっても、内容は多岐にわたるだろう。 それゆえに本書にも、中国に広まる実に多種多様な日本の文化やサブカルチャーが取り上げられている。
 例えばそれは、娯楽に飢えていた文革終了後の中国人を魅了した高倉健や山口百恵、また近年では国境を超えてファンを増やしている “身近なアイドル” AKB48の存在である。

 また、「エコでシンプルで上質」 な日本的イメージを持つという岩井俊二監督の映画、中国の若者や若手作家らが、そのプチブルっぽい雰囲気に憧れるという村上春樹の小説、「人生を変えた」 と言い切る若者までもが出てくる、創造性豊かな日本の漫画やアニメなど……。

 なかでも日本の人気戦闘漫画にしてアニメ化、実写映画化もされた 『進撃の巨人』 という作品については (私は恥ずかしながら未見なのだが)、この作品への中国ファンの反応を著者がつぶさに観察したくだりが、おもしろかった。
 中国のファンたちがネット上の掲示板で、「巨人とは中国のことを指しているのではないか? 巨人 (中国) の脅威から己を守らねばならない、と日本人に気づかせる狙いがあるのでは」 「右翼アニメではないか?」 などと一時動揺を見せたものの、結局はたとえイデオロギー性があったとしても、完成度が高くて面白い作品ならば 関係ない と、楽しんで受け入れていたというのである。

 これも1つの象徴的な事象だろうが、イデオロギーや価値観の違い、国境でさえも超越することのある 文化 の底力に、改めて気づかされる思いがする。

 私自身、もともと中国の文化、とくにサブカルチャーには関心がある。 だから著者の取り上げた事象の多くは、約13年に及ぶ北京滞在中に見聞きしたり、最近のメディアの報道やSNSの話題に触れたりして、知っていたつもりである。

 ただ著者の優れたところは、これまでの著書、例えば 『潜入ルポ 中国の女』 (文藝春秋) などでも遺憾なく発揮されているが、その圧倒的な取材力に加え、鋭い分析力、そして持論や考察をわかりやすく伝える筆力である (その持論なりが、必ずしも私のものと完全に一致するわけではないが……)。

 さらにいえば、1つの事象を速やかに報じるからこそ、タイムリーなレポート (記事) になるのであり、私のように 「あ、それ、知っている」 という自己満足のみに終わってしまっては、広範な読者には伝わらない。
 というわけで、タイムリーな記事をコンスタントに書き続ける著者には、多少なりともライターの端くれである私も大いに刺激を受けるのである。

 話を本書に戻そう。
 著者は本書で度々、中国の月刊誌 知日 について触れている。 日本に関してワンテーマずつ紹介している若者向けの情報誌で、2011年に創刊して毎月5〜10万部が売れているという。

 著者は、その人気が 「中国の日本好きを証明する十分な根拠になるのではないだろうか」 とした上で、『知日』 の編集長らが来日記者会見で語っていた、日本は 「中国を逆さまにした鏡」 だという言葉に注目。
 若い中国人の彼らが、禅や茶道といった 「日本文化のルーツが実は中国にあったということを、今さらながらに発見して驚いているという点」 に触れ、「中国人が、日本文化に心惹かれるのは、その中に息づく失われた中国の古い文化や伝統にDNAが共鳴するからかもしれない」 と述べている。

 この記者会見には私も同席しており、同じような感慨を抱いたことを思い出すが…… (関連記事: 東方書店サイト連載 「東京便り」 第14回、 関連エントリー)。 

 いずれにせよ、中国の一定の人々が日本に関心を寄せてくれているのを嬉しく思う一方で、私たちは日本の伝統文化やサブカルチャーをどれだけ正しく、広く、深く知っているか。 逆にいえば、そんな彼の国の文化をどれだけ知っているだろうか。

 著者は 『知日』 主筆の毛丹青さんの 「知の落差」 という言葉を引いて、 (知識、認識、教養といったもの) のギャップが、やがては 「国家間のパワーの落差になる」 と憂えているが、私もうなずくところがある。

 『本当は日本が大好きな中国人』 という、一見するとソフトで身近なタイトルなのだが、実のところ本書は日中間の 「知の落差」 の問題を突きつける、硬派な文化論となっている。


■ 『本当は日本が大好きな中国人』
福島香織・著、 朝日新聞出版 (朝日新書)、 304ページ
定価: 本体820円+税   アマゾン


※ 関連エントリー
・ 『マンガ 水煮三国志』、中国の兵法ビジネス知る参考書 (2011年11月8日付)
・ 『中国人がタブーにする中国経済の真実』 を読む (2012年8月8日付)
 
 

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  • 2017.10.14 Saturday
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