<< しゃっくりが止まらない… (1) | main | 北京のライター、多田麻美さんが書評掲載―『それでも私たちが日本を好きな理由』 >>

しゃっくりが止まらない… (2)

1_処方された漢方薬 【東京 日常 ブログ】
 ひどい風邪の影響か、しゃっくりが頻繁に出るようになった夫。 断続的な発症であるが、かれこれ6日になるだろうか。

 「オウオウオウ……」 と押し殺したようなしゃっくりの音は、不朽の名作 「道」 のヒロイン、ジェルソミーナの嗚咽のようでもあって、切なさが増す。

 とはいえ病院嫌いの夫にハッパをかけて、ようやく近所のK病院で診てもらった。

 すると一般的な風邪薬 (解熱、咳止めなど) のほか、しゃっくり対策の 「プリンペラン」 という錠剤をもらってきたが、医者のI先生に 「この薬はあまり効きません」 といわれたという。 効かない薬をもらってきてどうするのだろう……。

 ところがI先生は、「その代わりといっては何ですが、市販の漢方薬 『ネオカキックス』 が効きますよ」 と教えてくれたそうだ。 なんて正直な先生なのだろう!
 「コタロー (小太郎漢方製薬)」 という漢方製剤メーカーの 「ネオカキックス」 は “柿のへた” が主成分なのだそうだ。 そういえば柿のへたを煎じて飲むという民間療法は、ネット上でも見たことがある。

 「それじゃあ」 とばかり、近くの小さな薬局から大手ドラッグストアの支店まで、自転車でざっと5軒ほど回ってみたが、「ネオカキックス」 を置いている店は1つもなかった。 メーカーに直接問い合わせてもらった店では、「届くのに1週間ほどかかります」 とのこと。

 なんだか途方に暮れてしまった。
 風邪が治りかけてはいたが、しゃっくりが続く夫と二人、自転車を押しながらトボトボと歩いていると、最寄りのJR某駅前の商店街に軒を連ねる小さな漢方薬局が目に入った。
 漢方薬専門 K薬局 とある。

2_処方された漢方薬 飛び込みで症状と事情を話し、処方してもらった漢方薬の名前が 「柿蒂湯」 だ。 やはり柿のへたを主成分にしていた。

 和紙袋に入った1包が1日分で、これを煎じて3回に分けて服用する、朝鮮人参を加えたものなら多少高いが、滋養にも効果がある――と、ベテラン風の女性薬剤師で、たおやかなS先生が教えてくださった。

 「しゃっくりにもいろいろあって、胃を冷やしたことによるもの、胃が乾燥したことによるものでは、処方が異なります。 舌を拝見すると乾燥からではないようなので、胃が冷えたのかもしれませんね。 解熱には生姜が効きますが、もう熱は下がったそうなので、生姜や体を冷やす水などは控えてください。 飲み物なら、白湯やほうじ茶、玄米茶がいいでしょう……」

 まさに 「藁をもすがる思い」 の私たちに丁寧に説明してくださり、心底ありがたく思ったのだった。
 小さな薬局は奥に細長く、ガラス越しの奥の間には、本場中国の中医薬局では見慣れた百味(薬味)箪笥が置かれていた。 「千と千尋の神隠し」 の釜じいも使っていた、引き出しがいくつもあるアレだ。

 S先生がテキパキと調合している間、室内を見渡すと、中国の 『本草綱目』 や 『中薬学大辞典』 といった専門の大冊が目に入った。
 丁香 (丁子、クローブ) のにおいだろうか、生薬ならではの渋いにおいが漂っている。
 そういえば中国で新型肺炎SARSが流行った2003年の当時、暮らしていた北京ではSARSに効くという煎じ薬があみだされ、どこへ行ってもこんなにおいに包まれていたっけ。

 それに中医学では、食べ物・飲み物に体を温める 「陽性」 のものと、体を冷やす 「陰性」 のものがあると考えていて、私もそれにならって夏には陰性のスイカやトマトを、秋には陽性で栄養補給にもなる羊肉などを好んで食していたことを、思い出した。
 というより日本での慌ただしい生活ペースに巻き込まれ、食品の陰と陽なぞすっかり忘れていたことに衝撃を受けた。

 数千年の歴史に培われてきた中医学 (日本でいう 「漢方」) の薬局で、思いははるか中国へと飛んでいた。
 S先生にお礼をいって、K薬局を後にした。

3_処方された漢方薬 この日、早速 「柿蒂湯」 1包を飲み干した夫。
 翌日は、少し高いが朝鮮人参2グラム入りの 「丁香柿蒂湯」 を3包求め、以来1日に1包ずつ、大切に服用している。

 はてさて、効果のほどはいかがだろう。

 秋の夜は更けて、隣の部屋からジェルソミーナの嗚咽がまだ漏れてくるが……。
 しばらくは柿のへたパワーに委ねてみよう。 それからのことはそれからだ、と大陸的大らかさで考えてみた私であった。                                           
                                           (この稿、終わり)


※ 写真は、K薬局で処方された漢方薬。


スポンサーサイト

  • 2017.06.25 Sunday
  • -
  • 08:00
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク
コメント
「不朽の名作 「道」 のヒロイン、ジェルソミーナの嗚咽のようでもあって、切なさが増す。」フェリーニですね。哀愁がある。
「ネオカキックス」なるほど薬の名前ですね。

ついに今年、中国からはじめての自然科学のノーベル賞がでました。女性科学者で中西医結合医学を研究している人に与えられたことが非常に興味深いです。西洋の科学は、東洋の科学よりも先験的にすぐれているとみなされがちですが、必ずしもそうは言えないのが医学分野、特に中国医学の分野だと思います。西洋医学は基本的に人間機械論という世界観で人体を観ますが、中国医学はそうではないですよね。まあ西洋医学の欠落部分を補完するものとしての中国医学というのは、有効性が高いと考えています。
というわけで「ネオカキックス」に期待したいですね。お大事に。
  • ゴジラ@北京
  • 2015/10/09 6:33 AM
ゴジラ@北京様: ありがとうございます。

結果的には、風邪が治るとともにしゃっくりも止まったので、「柿のへた」がどれだけ効いたのかわかりませんが……。
それでも私は、柿のへたパワーに賭けていました(苦笑)。

漢方のS先生によれば、「効き目でいえば(ネオカキックスより)生薬のほうが……」とのこと。
それもそのはずで、市販薬のネオカキックスは生薬を飲みやすく製剤化したものですから、成分的には似ているのかもしれません。

その後いろいろ調べていたら、なんと料理レシピ専門サイト「クックパッド」にも、「柿のへた茶」のレシピが出ていました(しかも最近公開されたばかりです!)。

記録として、リンクを貼らせていただきます(笑)。

* しゃっくりが止まらない!柿のへた茶で解消
  http://cookpad.com/recipe/3427008


> ついに今年、中国からはじめての自然科学のノーベル賞がでました。

ノーベル生理学・医学賞受賞を受賞された中国の女性薬学者、屠 [口幼] [口幼] (トゥー・ユーユ)氏ですね。
中国メディアでは、ずいぶん盛り上がっているのではないでしょうか?

ちょうどバタバタしている折で、ブログでは触れられませんでしたが、私も「オッ!」と思いましたよ。

悠久の歴史の中で培われてきた中国医学。
近年では「西洋医学の欠落部分を補完するもの」として漢方薬を取り入れる日本の病院も増えてきたようですが、
その科学的な解明が進めば「補完」どころではない医学分野が、世界的に確立するかもしれません。

そう考えると、じつに興味深いですよね。^^
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
calendar
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
sponsored links
selected entries
categories
archives
recent comment
recent trackback
recommend
在日中国人33人のそれでも私たちが日本を好きな理由
在日中国人33人のそれでも私たちが日本を好きな理由 (JUGEMレビュー »)
趙 海成
小林さゆり/訳

【中国人著者が聞き出す本音の日本論】
『それでも私たちが中国に住む理由』、待望の姉妹本!
recommend
今こそ伝える日中100人
今こそ伝える日中100人 (JUGEMレビュー »)
北京大学日本校友会

日本と中国をつなぐ100人へのインタビュー集! 私も紹介していただきました。 お陰様でたちまち2刷に!!
recommend
在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由
在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由 (JUGEMレビュー »)

中国18都市に住む、日本人108人のリアルな証言! 取材・編集に携わりました。 5刷 好評発売中!
recommend
中国年鑑 (2012年版)
中国年鑑 (2012年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
中国年鑑 (2011年版)
中国年鑑 (2011年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
中国年鑑 (2010年版)
中国年鑑 (2010年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
これが日本人だ!
これが日本人だ! (JUGEMレビュー »)
王 志強
小林さゆり/訳

【読んで首肯するか、立腹するか! ―― 中国人の対日認識を知るための必読書】
2刷 好評発売中!
recommend
北京探訪―知られざる歴史と今
北京探訪―知られざる歴史と今 (JUGEMレビュー »)

「大ブームに沸く 笑いの文化」を執筆しています。
recommend
出張に役立つ中国語―もう困らない、恥をかかない
出張に役立つ中国語―もう困らない、恥をかかない (JUGEMレビュー »)
ニューメディア研究所thinking

2005年アルク刊
コラムを執筆しています。
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM