<< 「台風19号」 被災された皆様にお見舞い申し上げます! | main | 東京・六本木の多元文化会館 煎茶文化の交流会などイベント多彩に >>

『中国 古鎮をめぐり、老街をあるく』――奥深い街や村の息づかいが聞こえる

『中国 古鎮をめぐり、老街をあるく』 【中国関係 図書 ブログ】

 よく言われることだが、人は旅をすると心が豊かになり、より以上に見聞を広め、見識を深めることができるという。

 つまり、旅というのは、人を一回りも二回りも大きくさせてくれることがあるのだろう。

 実際にそんな経験をした人も少なからずいるだろうし、そういう私も旅の前と後とでは “別人格” になったかのように、ものの見方や考え方がガラリと変わった!という神秘的な体験をしたこともある。

 中国 古鎮をめぐり、老街をあるく (亜紀書房) を読み終え、ふとそんな記憶が脳裏をよぎった。 私が中国の北京に住んでいたころからの老朋友であり、現在もライター、翻訳家として活躍している多田麻美さんの新しい紀行エッセイである。
 数年前の第一作 『老北京の胡同』 (晶文社) で、多田さんは急速な発展のために失われていく北京の横町 「胡同」 (フートン) を丹念に記録していた。

 単著としては第三作となる本書では、北京の胡同から大きく飛び出し、中国各地の古い歴史の面影を残す街 「古鎮」 や村落をめぐり、古くから残る通りの 「老街」 を歩いている。 長年暮らした胡同の歴史文化に精通している多田さんが、その細やかで鋭い観察眼を、足元から広く中国各地に転じたのが本書である。

 「窯洞」 (ヤオドン) と呼ばれる洞穴式住居が、天空に浮かぶかのように山の斜面に無数に並ぶ山西省の李家山村。
 古い石造りの橋に仙人の足跡が残るという伝説で知られる湖南省の帰陽鎮。

 磁器の都・景徳鎮 (江西省) の繁栄を今に伝える、敷石に残る一輪車の溝。
 伝統武術が消えゆく一方、カンフー映画のヒットによって近代武術を世界の弟子に教えている武術学校 (河南省・磨溝村)。
 変わりゆく水郷 (浙江省・西塘鎮)。

 急速な都市化の波にもまれながら、伝統工芸、伝統技術を継承する人たち。
 「豆花」 (おぼろ豆腐)、「腐乳」 (豆腐の発酵食品)、菊花茶、紹興酒、羊肉ハンバーグなどの各地の名物……。

 めぐり歩いた場所はざっと28カ所に上るが、そこからは、北京や上海といった大都市の表面からは窺い知れない、奥深い街や村の息づかいが聞こえてくるかのようだ。
 しかも多田さんの筆致は、温かくも冷静かつ客観的だ。

 「残念なことに、地域単位で推進されている文化財の保護とは、ただ外観をきれいにするだけで、老朽家屋の補強工事などは含まれない。 (中略) 風霜に耐えた建物や石畳は磁器の街が担った伝統の証だ。 だが、いくら惜しむ気持ちがあっても、個人の力ですべてを守るのは難しい」 (江西省景徳鎮市)

 「マンションでの年画制作にも、楊仲民さんはまだ慣れることができない。 (中略) 版画制作を放棄した者も多いという。 厳しい文革時代を生き抜いた伝統版画は今、別の危機に直面しているのだ」 (天津市張家窩鎮)

 消滅していく北京の胡同の歴史と今をつぶさに見つめた 『老北京の胡同』 の鋭い筆致は、本書でも健在だ。
 そして多田さんは、再開発のため住民の立ち退きが進められ、すっかり寂れてしまったという重慶市の下浩老街で、鎮守の神様でさえ壊されたり、移転させられたりしている厳しい現実を目の当たりにして、こう語る。

 「神様でさえ追い払われるぐらいだから、これらの風景の消失はもう不可逆なのだろう。 つまり、できることはもはや 『記録』 だけなのだ」 (重慶市・下浩老街)

『中国 古鎮をめぐり、老街をあるく』 『老北京の胡同』 もそうであったが、ここに多田さんの旅 (探究) の本来の目的があり、本書の意義があると思う。

 つまり本書は、中国の古鎮にスポットを当てた希少な旅行ガイドであり、味わい深い紀行エッセイであるのみならず、古鎮の今昔を伝える第一級のフィールドワークの成果であり、貴重な現地からのレポートなのである。 

 多田さんの長年の労をねぎらうとともに、このような渾身の作を世に送り出してくれたことに心から感謝したい。

 冒頭でも述べたが、人は旅をすると心が豊かになり、より以上に見聞を広め、見識を深めることができるという。

 本書をひもとくと、いつしか中国古鎮への脳内トリップにいざなわれ、やがてそうした旅の効果をリアルに感じることができるだろう。


『中国 古鎮をめぐり、老街をあるく』
  多田麻美・著、 張全・写真、 亜紀書房


※ 写真は、『中国 古鎮をめぐり、老街をあるく』 の表紙。
   本書には、張全さんによる知られざる古鎮の写真も豊富に収録されている。

※ 関連エントリー
 失われていく北京の横町 「胡同」 を丹念に記録――『老北京の胡同』 著者の多田麻美さんに聞く (2015年5月8日付)



スポンサーサイト

  • 2019.11.17 Sunday
  • -
  • 08:30
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
calendar
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>
sponsored links
selected entries
categories
archives
recent comment
recent trackback
recommend
在日中国人33人のそれでも私たちが日本を好きな理由
在日中国人33人のそれでも私たちが日本を好きな理由 (JUGEMレビュー »)
趙 海成
小林さゆり/訳

【中国人著者が聞き出す本音の日本論】
『それでも私たちが中国に住む理由』、待望の姉妹本!
recommend
今こそ伝える日中100人
今こそ伝える日中100人 (JUGEMレビュー »)
北京大学日本校友会

日本と中国をつなぐ100人へのインタビュー集! 私も紹介していただきました。 お陰様でたちまち2刷に!!
recommend
在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由
在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由 (JUGEMレビュー »)

中国18都市に住む、日本人108人のリアルな証言! 取材・編集に携わりました。 5刷 好評発売中!
recommend
中国年鑑 (2012年版)
中国年鑑 (2012年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
中国年鑑 (2011年版)
中国年鑑 (2011年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
中国年鑑 (2010年版)
中国年鑑 (2010年版) (JUGEMレビュー »)

最新中国情報を網羅!
「暮らし」を執筆しています。
recommend
これが日本人だ!
これが日本人だ! (JUGEMレビュー »)
王 志強
小林さゆり/訳

【読んで首肯するか、立腹するか! ―― 中国人の対日認識を知るための必読書】
2刷 好評発売中!
recommend
北京探訪―知られざる歴史と今
北京探訪―知られざる歴史と今 (JUGEMレビュー »)

「大ブームに沸く 笑いの文化」を執筆しています。
recommend
出張に役立つ中国語―もう困らない、恥をかかない
出張に役立つ中国語―もう困らない、恥をかかない (JUGEMレビュー »)
ニューメディア研究所thinking

2005年アルク刊
コラムを執筆しています。
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM